インドとイギリス紳士

日本ではすっかりクールビズが定着しており、今では大臣がノーネクタイで記者会見に
臨む姿もなんら違和感なしに受け取られるようになってきた。

暑い国では、それが当たり前だろうと思うかもしれないが、どうもそうでもないのだ。
例えば、バングラディシュでは大臣や政府高官は夏でも ━ といっても年中夏のようなも
のであるが ━ ほとんどがネクタイをして、きちんとした服装をしている。
どうも、これは植民地時代の名残らしいのだ。

インド、バングラディシュ、パキスタン、ミャンマーは、かつてイギリスの植民地であ
り、これらの国々を一括してイギリス領インドとしてイギリスのインド統治政府が支配し
ていたが、行政を行うために公務員を現地人から採用していた。彼らはエリートとして扱
われる代わりにイギリス紳士並みの厳格な食事マナーや服装が要求された。採用にあたっ
ては食事マナーなどの試験があったそうだ。いまもそれが色濃く残っているらしい。これ
ら4つの国でビジネスを行っているイギリス人の話では、バングラディシュが一番、その
名残が残っており、イギリス紳士のように振る舞うのがエリートの条件であると考えてい
る人々も多いとのことだ。反対に一番旧方式に囚われなくなったのが、インドだというこ
とである。インドは目覚ましい経済成長で国力をつけてきており、エリートをはじめ人々
が自信を深め、古いしきたりを気にしなくなってきた所以なのかもしれない。しかし、そ
れでも現代のイギリス人から見れば、まだまだ格式ばっているとの事だ。これも国の発展
とともに変わっていくのだろう。

児玉 博嗣

インドをはじめ、世界各地の火力発電所の発電設備の保守管理を技術面から サポートする仕事を30年以上、発電所の人たちと一緒に手がけてきた。 趣味は歴史書の読書、エッセイーや掌編小説の執筆、町の散策と多岐にわたる。 幅広い国際経験を生かし、インド・日本の双方のウィン・ウィンの関係の構築 に貢献したい。